研究活動

年次大会

第69回大会(東洋大学/オンライン)「テーマ部会」

▼テーマ部会A「理論という実践――ジェンダー理論は社会正義を語れるか」
▼テーマ部会B「ワークショップ時代の統治と社会記述――「新自由主義」の社会学的再構成」

テーマ部会A 「理論という実践――ジェンダー理論は社会正義を語れるか」

担当理事:流王 貴義(東京女子大学)、出口 剛司(東京大学)
研究委員:三浦 直子(神奈川工科大学)、齋藤 圭介(岡山大学)

文責:齋藤 圭介

部会要旨

テーマ部会Aでは昨年度より「理論というフィールド=ワーク/理論という実践」を共通テーマとして掲げています。昨年の学会大会では、ピエール・ブルデューの『世界の悲惨』をとりあげ、社会学理論が本来備えている力能――社会的現実や対象となる「フィールド(field)」そのものを生産する構想力や対象の輪郭を浮かび上がらせる記述力――に焦点をあて、社会学における理論研究の営みについて幅広い議論が行われました。
 その成果を踏まえつつ、今年度は、社会学における理論研究の応用問題としてジェンダー平等について考えたいと思います。ジェンダー平等という規範は、あるべき社会を構想するさいの主要な論点の1つですが、その平等の内実をめぐっては、何のどのような平等なのかをめぐり議論が錯綜しています。現代リベラリズム理論はジェンダー平等をめぐる錯綜した議論に1つの解を提示したといえますが、その評価をめぐってはジェンダー理論家のあいだでもさまざまな立場があります。
 今年度のテーマ部会Aでは、平等を志向するジェンダー理論が有する構想力や記述力について考えたいと思います。第一報告の魚躬正明さんからは、ジェンダー平等をめぐる議論をなすさい、つねに有力な参照点の1つであり続けた現代リベラリズム(とくにJ.ロールズの議論)の枠組みでジェンダー平等に関していえること/いえないことについて問題提起をいただきます。第二報告の金野美奈子さんには、J.ロールズの政治的リベラリズムによって示唆された社会像を手掛かりとしながら、よりよい社会の構築に向けジェンダー理論が果たしうる役割についてご報告をいただきます。そのうえで、ジェンダー理論と規範的政治社会論との間での役割分担について問題提起をいただきます。第三報告の山根純佳さんからは、フェミニズムの主張が公共的問題として位置づけられるさいにジェンダー理論が果たす役割についてご報告をいただきます。特に、「累積的問題」としての女性差別の不当性とリベラリズムの公私の区分に対してもつ批判力について問題提起をいただきます。
 討論者として、日本のジェンダー理論の研究でつねに最前線に立ち、ジェンダー平等をめぐる社会学的研究を牽引されている千田有紀さんと江原由美子さんにコメントをいただきます。
 みなさまのご参加をお待ち申し上げます。

報告者および題目

ロールズの政治哲学とジェンダー平等――公正としての正義の方法、実質、制度構想(仮)
魚躬 正明(成蹊大学)

社会の中の規範理論――ジェンダー研究との対話から(仮)
金野 美奈子(東京女子大学)

フェミニズム・ジェンダー研究による構造的説明と公私の再編(仮)
山根 純佳(実践女子大学)

討論者:千田 有紀(武蔵大学)、江原 由美子(東京都立大学名誉教授)
司会者:流王 貴義(東京女子大学)、齋藤 圭介(岡山大学)

テーマ部会B「ワークショップ時代の統治と社会記述――「新自由主義」の社会学的再構成」

担当理事:加島 卓(東海大学)、元森 絵里子(明治学院大学)
研究委員:牧野 智和(大妻女子大学)、仁平 典宏(東京大学)

文責:加島 卓、元森 絵里子

部会要旨

テーマ部会Bでは、2年間かけて、現代社会の記述の困難について議論してきました。かつて、国家権力や専門家支配などの近代的な大文字の諸価値に対して、「自治」や「参画」や「選択」などの価値を対置する営みが各分野で行われてきました。他方、それらもまた統治に「組み込まれている」といった類の批判も随伴していました。翻って現在、それらは「オルタナティブな価値」や「権力との共振」などと捉えるのが躊躇われるほど、我々の日常に溶け込んでいないでしょうか。このように様々な対抗図式が不具合を起こし、大上段的な批判や「〇〇化社会」式のグランドセオリーが空を切るように感じられてしまう時代を、タイトルの「ワークショップ時代」という言葉でイメージしています。この時代を、社会学者はどう記述したらいいのか、これまで分野横断的に議論をしてきました。今回の大会時テーマ部会では、近年大きな影響力があった社会モデルである「新自由主義」を再審に付したいと思います。
 周知のように、20世紀の後半に至るまで、批判理論の多くは膨張する福祉国家を乗り越えの対象としてきましたが、福祉抑制・削減の政治が前景化する中で、その構図は反転し、かつてのオルタナティブは統治の一環とされるようになります。新たな政治的布置に体系的な意味を与えたものこそ「新自由主義」という社会記述でした。ところが近年の日本では、社会学領域も含め、「新自由主義」という記述の失効が指摘されるようになっています。様々な議論が出揃った今こそ、同時代史/現代史における「新自由主義」という社会記述の性能について、社会学に吟味する好機と考えます。それは認識的・政治的な選択を歪める誇大理論なのか、諸領域に共通する統治の中核を抉り出す透徹したモデルなのか、その概念を有意味な形で運用・再構築する方向はどこなのか、複数の角度から議論していきたいと思います。
 第一報告の仁平典宏さんからは、「新自由主義」の定義の多様性に焦点を当て、それぞれの視角ごとに近年の日本社会はどう観察されうるのかご紹介頂きます。第二報告の木寺元さんは、行政学の観点から、日本の官僚制や市民社会の特徴についてご紹介頂いた上で、「新自由主義」概念が行政学によってどう捉えられ、評価されてきたのかご報告いただきます。第三報告の北田暁大さんからは、「新自由主義」概念を批判的に用いる論者が「人びとの積極的な自己や生への配慮(自己責任・自己実現・自由競争)を促しつつ、小さな政府を志向する」立場に帰着してしまうという逆説的な捻れを分析して頂いた上で、その概念が有意味なものとして受け取られ・使用される条件についてご報告頂きます。
 討論者には、「新自由主義」を現代社会の問題点を深層部において剔出するための概念として用いられ、多くの論考を発表されてきた樫村愛子さんをお迎えします。これらを通して、「新自由主義」概念の有効性と問題点について理解を深めると同時に、単一的な社会記述が困難になりつつある現代において、マクロな社会理論で社会を捉えるということの意味について考える契機にもしていきたいと思います。

報告者および題目

「新自由主義」に関する複数の記述をめぐって
仁平 典宏(東京大学)

日本の行政学は「新自由主義」をどのように捉えてきたのか
木寺 元(明治大学)

「新自由主義」の機能
北田 暁大(東京大学)

討論者:樫村 愛子(愛知大学)
司会者:加島 卓(東海大学)、元森 絵里子(明治学院大学)