第37回大会(上智大学)「テーマ部会」
▼テーマ部会 I:女性の進路選択プロセスとその規定要因をめぐって
▼テーマ部会 II:現代国家と社会政策
▼テーマ部会 III:福祉国家と政策
▼テーマ部会 IV:エスニシティと都市社会
テーマ部会 I:女性の進路選択プロセスとその規定要因をめぐって
報告者および題目
中・高校生女子の進路形成過程
耳塚 寛明(お茶の水女子大学)
女性の教育と職業におけるアスピレーションと達成
岩永 雅也(放送教育開発センター)
女性のライフコースと就業パターン
平田 周一(雇用職業総合研究所)
討論者:藤崎 宏子・亀田 温子
司会者:酒井 はるみ・渡辺 秀樹
報告概要
渡辺 秀樹(電気通信大学)
ジェンダー部会では、女性の教育達成と職業達成についての実証的研究をとりあげた。昨年度の「ジェンダーと階級・階層」というテーマ設定を受けて、今年は階級・階層に位置づいていく過程としての進路形成における性差と女性のなかの分化を明らかにしようとしたわけである。
第一報告の「中・高生女子の進路形成過程」耳塚寛明氏では、パネル調査の分析により、女子の教育アスピレーションの不明確なこと、教育アスピレーションが成績の自己評価と相関が弱いこと、女子向きの職業志向が中3の時期に成績の下位者から強まるということなどの結果が報告された。女性の進路選択が学校メリトクラシーと表裏をなすセクシズムのなかでおこなわれていることが指摘された。
第二報告の「女性の教育と職業におけるアスピレーションと達成」岩永雅也氏では、1985年に実施されたSSM調査における女性データの分析により、女性の教育アスピレーションあるいは初職達成に対する母親学歴の重要性、母親の就業経験と本人の職業アスピレーションとの有意な関係などが報告された。SSMの一つの研究領域であるアスピレーション研究に新たに女性データを適用することによって、従来の男性データの分析との対比が可能となり、女性にとってのアスピレーションの意味、モデルとしての母親の効果、家族キャリアとの関連の検討の必要性が指摘された。
第三報告の「女性のライフコースと就業パターン」平田周一氏では、1983年実施の調査により、教育と職業の関連がロジスティック回帰分析を用いて報告された。女性の高学歴化が就業率を上昇させることに貢献していないということ、しかし高学歴者で未婚期に就業していた者は、育児期間終了後の就業率が高いという結果から、女性の学歴と就業との錯綜した関連が指摘された。
討論者の藤崎宏子氏・亀田温子氏および会場の出席者から熱心な議論が提起された。ジェンダーの社会学は、女性の進路形成について重要な実証的知見を得ることができた。これらの知見を、ジェンダーの社会学として、いかに体系的に、そして理論的に取り込んでゆくのか、という課題が、全体の議論のなかで浮かびあがってきたのではないだろうか。
テーマ部会 II:現代国家と社会政策
報告者および題目
新幹線建設過程の日仏比較
舩橋 晴俊 (法政大学)
都市政策にみる国家と地方自治体 ―都市自治体の財源の社会過程分析―
似田貝 香門 (東京学芸大学)
通商産業政策の決定過程
矢澤 修次郎 (一橋大学)
討論者:古城 利明・伊藤 るり
司会者:副田 義也
報告概要
副田 義也(筑波大学)
このテーマ部会は、同一テーマをかかげて三年目の最終回になる。冒頭、司会の副田義也が、部会の基本的意図は、現代国家の構造と機能を政策の決定と遂行のレヴェルで論じることにあると述べた。それは、国家の社会学理論の新しい展開の契機となるはずである。報告は、船橋晴俊「新幹線建設過程の日仏比較」、似田貝香門「都市政策にみる国家と地方自治体」、矢澤修次郎「通商産業政策の決定過程」の三つであった。実証データを豊富にそろえ、多岐にわたった論点は紹介のしようがないが、やや強引にまとめるならば、日本の中央政府が、その特定の政策の決定と遂行の過程において、対外国政府(フランス政府など)、対地方自治体(神戸市など)、対世界経済(多国籍企業など)で、論じられることになった。
討論者・伊藤るりは、フランスの原発建設の例をあげて、船橋の報告の事例の一般化に限界があると指摘し、古城利明は、国家論の最近の動向を紹介しつつ、管理国家などの視点を紹介した。フロアからの発言者は、田野崎昭夫、吉田裕、庄司興吉などで、権力エリートの犯罪、中国の官僚制、さらには、社会政策への実証的な注目は体制の問題をないがしろにすることに通じないかと多くの問題提起がおこなわれた。司会からは、残された問題の一部として、社会主義国家やイスラム国家の実態、国家の連合体としての国際連合の社会学的研究の必要が指摘された。
日本社会学においては、国家は、かつてもっぱら観念的、思弁的に論じられ、その後は積極的に論じられることがなく長い時間が経過した。しかし、最近、政府の省庁レヴェル、政策レヴェルの実証的研究が、多方面でかならずしもたがいの関連を意識されないままに出現しつつある。このテーマ部会は、三年にわたって、それらの代表的なものを出会わせる場となり、国家の社会学理論の可能性をかんがえさせることに貢献した。
テーマ部会 III:社会理論のフロンティア―意味と社会システム―
報告者および題目
意味の理論はいかなる必然性のもとで社会の理論でもあるのか?
大澤 真幸 (東京大学)
いかにして理解できるのか ―「意味と社会システム」再考―
山崎 敬一 (埼玉大学)
社会意味論の可能性
徳安 彰 (法政大学)
討論者:今田 高俊・橋爪 大三郎
司会者:江原 由美子
報告概要
江原 由美子(お茶の水女子大学)
今年度も、昨年に引続き、現代社会理論の基礎的な問題を討議することを目的とする「社会理論のフロンティア」というテーマで部会が持たれた。昨年度の「自己組織性と言語ゲーム」において、「意味の社会性とは何か」、「意味に公共性はあるのか」といった論点が見出されたが、本年度はこの問題に焦点を当て、大沢真幸氏・山崎敬一氏・徳安彰氏の3人の方々から報告を戴いた。大沢氏は、「意味は、超越性を擬制する特殊なタイプの社会的実践を必然化する」という論点から「意味の理論」が「社会システム」の理論と接続する論理的根拠を呈示する。山崎氏は、逆に日常的な実践としての「他社理解」という現象から出発する必要を主張し、日常的実践としての他社理解は、「互いに互いの文脈を指示できる」という「人間の共在のありかた」に基づいているのであり、意味と社会システムを対立的なものと考える通常の「二分法」的考え方は本来成立不可能であると論じる。他方、徳安氏は、社会学的思考において通常使用されている「意味」という概念の使用法を特定することから出発し、そこにおいては「意味を実体化」する傾向があると批判する。そして「意味の理論から意味構成の理論」へ論点を移動するべきであると主張し、このような論点の移動によって「社会システム」は「意味構成の場」として意味の理論の中に最初から組みこまれうるという。報告者の考える「意味の社会性」は、少しずつ異なっていると思われるが、3者とも「意味は本来社会的現象である」という点においては共通する報告となった。討論者・フロアの参加者からは、それぞれの論者の論点の意義、あるいはこの部会の存在意義にも関わるような根源的な問題提起も含めた批判が多く提出され、意義深い討論が行われた。2回続いた「社会理論のフロンティア」部会は、一応今回で終了するが、個別のテーマを離れたこのような「基礎理論的」討議に関心が多く寄せられたことは、現代社会学理論の中で生じている「新しい理論統合」の動きを反映していると思う。討議の継続を期待する。
テーマ部会 IV:エスニシティと都市社会
報告者および題目
エスニシティの神話
飯田 剛史 (富山大学)
在日韓国・朝鮮人の宗教文化とエスニシティ
飯田 剛史 (富山大学)
New Comersとしてのアジア系外国人問題
―東京・池袋地区の事例的実態調査から―
奥田 道大 (立教大学)・和田 清美 (常磐大学)・田嶋 淳子 (立教大学)
討論者:有末 賢・三橋 修
司会者:長田 攻一・町村 敬志
報告概要
長田 攻一(早稲田大学)
昨年初めて取り上げられた「都市社会におけるエスニシティと異文化」の問題を、就業形態における偏りなどを共通の切り口とした昨年とは若干異なり、今回は「エスニシティ」概念の有効性といった議論を踏まえて、日本でのその適用可能性、都市における新たな文化形成、コミュニティ・コンフリクト、受容と排除の都市社会的メカニズムなどを比較検討することを狙いとした。
第一報告「エスニシティの神話」奥出直人(日本女子大学)は、アメリカ合衆国の歴史の中での「エスニシティ」概念の意味変遷の整理を通じて、この概念が政策や社会統制の道具となってしまっていることを示し、その神話性を突くとともにその使用にあたっての慎重な注意を促した。また第二報告「在日韓国・朝鮮人の宗教文化とエスニシティ」飯田剛史(富山大学)は、大阪府生野区での10ヶ月に及ぶ居住経験を通しての実態調査により、日本の都市において在日韓国・朝鮮人を中心とする独特の宗教文化が形成されていることを明らかにし、若い世代の新たな「エスニシティ」維持への関心と動向についても報告した。第三報告「New Comerとしてのアジア系外国人問題」奥田道大(立教大学)、和田清美(常磐大学)、田嶋淳子(立教大学)は、東京都豊島区において近年急増しているアジア系外国人の生活実態調査と先住住民の反応調査を通じて、コミュニティ・コンフリクトの実態、地域の統合度と受容度の関係、それらの地域差などを明らかにし、日本の都市社会の今後の展開への予測を踏まえて新たな研究のパラダイムについての示唆を行なった。
討論者の有末賢氏(慶應義塾大学)からは、日本の中でのエスニシティをめぐる問題の展開過程とその神話性の解明、さらには都市社会の階層性、マージナリティといった文脈での検討の必要性への指摘がなされ、他方、三橋修氏(和光大学)からは、エスニシティ概念を語るときに人権問題とのかかわり、階級問題と人種問題のかかわり、最終的には国家の問題が視野に入ってこざるをえないことなどが指摘された。またフロアからもヨーロッパでのracismの展開過程から学ぶことの必要性も示唆された。
会場の熱気にもかかわらず、時間の都合で議論は報告者と討論者の間で終始する形になってしまったが、「エスニシティ」論および都市社会研究の文脈でも今後のテーマや方向性についての重要な示唆がなされたように思う。