研究活動

研究例会

受付終了

2022年度 第2回研究例会
新しい社会調査法と社会調査教育
――新しい社会調査法と社会学におけるデータ――

 社会学における調査は、つねに技術革新とともに変化してきた。印刷技術、レコーダー、電話、ビデオ、電子計算機、インターネットなど様々な技術が登場するなかで、社会調査という営みも多様化している。面接調査や質問紙調査、参与観察はもとより、ウェブ調査やサーベイ実験といったインターネットを活用した調査手法が一般化し、大規模なテキスト処理や地理空間情報を用いた分析も行われるようになってきている。質的調査においても、音声やビデオ、QDAソフトなどが活用され、オンラインでのインタビュー実践もコロナ禍では広く行われた。
 とくにデジタル革命は、新しいタイプのメソッドを可能とし、また必要ともする状況を生み出している。例えば、ウェアラブル・デバイスを用いた行動追跡や、ソーシャル・リスニングによるデータ収集の可能性が広がった。スマートフォンの位置情報、血圧、ボディマス指数、遺伝情報など、自然科学で用いられてきた情報も社会学の変数として扱われるようになりつつある。そこでは、既存の調査で収集されたデータとは異なるタイプのデータが分析対象となっている。分析手法においても、反実仮想や因果推定には新たな理論とツールが導入され、また、テキスト分析やネットワーク分析といった分析手法も日々開発が進んでいる。
 そこで、本テーマ部会では、新しい調査法がもたらすかつてない機会を縦覧するとともに、社会調査や分析の未来像を模索したい。2022年には新しい調査法が登場するなかでの社会調査教育を主題として、先進的な取り組みの紹介と、現在の社会調査教育の課題を議論してきた。2023年は、社会調査の理論的・技術的イノベーションを踏まえ、そもそも調査とはなにか、データとはなにか、データ収集や分析をどう理解するか、という認識論や調査倫理にまで踏み込んでゆく。
 2023年の研究例会では、2022年の研究例会、テーマ部会での「新しい社会調査法と社会調査教育」についての議論を踏まえつつ、新しい調査実践の可能性と課題に取り組んでいる研究者を迎えてそれぞれの経験を共有する。後半ではラウンドテーブルの時間を設ける。研究者、実務家、大学院生など調査に携わるさまざまな立場の方に参加いただき、情報交換や対話の機会としたい。

開催日時

 2023年3月4日(土)14:00~17:00

報 告

小田中悠(東京大学)、 木村忠正(立教大学)、 浅川達人(早稲田大学)

司 会

 渡邉大輔(成蹊大学)、 秋吉美都(専修大学)

会 場

Zoomによるオンライン形式で開催

研究例会への参加を希望される方は、2月28日(火)までに、以下のリンク先のGoogle Formにて、必要事項を記入し、送信して下さい。前日までにオンライン参加に必要な情報をお知らせします。
【締め切りました】

連絡先

専修大学
秋吉 美都
Email:akiyoshi[at]senshu-u.ac.jp([at]を@に置き換えてください)

担当研究委員

担当理事: 渡邉大輔(成蹊大学)、秋吉美都(専修大学)
研究委員: 内藤準(成蹊大学)、齋藤圭介(岡山大学)

◆報告要旨

「計算社会科学的なテキスト分析」(仮)

小田中悠(東京大学)

 近年、学際的な潮流である計算社会科学は、社会学においても注目を集めている。計算社会科学の特徴は、コンピュータを駆使しながら、web上に存在する大量のデータの収集し、そのデータを分析することにある。本報告では、まず、そのようなデータの収集・分析を行う過程について紹介する。具体的には、報告者が現在取り組んでいる、webサイトやSNSからのテキストデータの収集、そして、大量のテキストデータの整理・分析を扱っていく。
 その上で、学際的な計算社会科学的なアプローチを社会学に導入していく中での、研究上の問題意識を共有し、議論していきたい。それは、計算社会科学的な調査・分析と社会学の諸議論をいかにむすびつけていくかという問題である。この報告では、現在報告者が関心を持っている、人々の感情に注目した計算社会科学的なテキストデータの分析を取り上げてみたい。そのような感情の研究方法には、ソーシャルメディアにおける投稿の同時多発性に注目したものや、テキストに用いられている語に焦点を合わせたものなどがある。これらの手法と感情社会学の議論の関連について検討してみたい。

「ハイブリッド・エスノグラフィー~ビッグデータと質的調査~」(仮)

木村忠正(立教大学)

 報告者は、文化人類学の専門教育を受け、1990年代半ばから、サイバースペースをフィールドとする調査研究に取り組んできました。2010年代、ソーシャルメディアとスマートフォンの爆発的普及は、膨大なデジタルデータを生成し、定量的分析方法が革新的に進展する一方、文脈に即したきめ細かい意味生成の機序を定性的に丁寧に解析することで、コミュニケーション、対人関係、社会の在り方の変化を基底的に理解する必要性もまた高まっています。
 そこで、報告者は、CMC研究、デジタル人類学、サイバーエスノグラフィー、科学技術社会論などの議論を横断的、統合的に俯瞰しながら、同時同所性・定性・干渉型参与観察を必須とした従来の「エスノグラフィー」に対して、ネットワークコミュニケーション研究において、定性・定量を対称的に扱い、ログデータを駆使することで、多時的・多所的データを、干渉型・非干渉型調査を組み合わせてアプローチする必要性を主張し、「ハイブリッド・エスノグラフィー」として体系的議論と実践を試みてきました。
 本報告では、「ハイブリッド・エスノグラフィー」の基本的枠組を報告するとともに、現在取り組んでいるモバイルライフログ(スマホログデータ)とウェブアンケート調査とを組み合わせた情報行動調査について紹介し、参加者の皆さまと一緒にビッグデータと質的調査を組合せたリサーチデザインについて考えを深める機会にしたいと思います。

「社会地図と質問紙調査の統合」

浅川達人(早稲田大学)

 スマホに搭載されている標準アプリに地図が採用されるようになり、紙の地図を読むのが苦手だった人でも、気軽に地図を使うことができるようになった。今自分がいる場所がどこか、そしてこれから向かう場所までの経路がどれかを示す地図だけが地図ではない。住民の日常生活世界を可視化する地図もある。それが社会地図である。
 社会地図を社会調査に用いた研究の歴史は古く、社会地図は新しい社会調査手法ではない。しかしながら、これを社会調査の手法として活用している人は少ない。それは、社会地図が何を示しているのか、社会調査の手法としてどのように役に立つのかが、共通理解となっていないからであろう。
 本報告では社会地図が住民の日常生活世界のどの部分を可視化できるのかを検討するとともに、社会地図と質問紙調査という2つの社会調査手法を統合することによって、どのような知見を得ることが期待できるかについて検討してみたい。

(文責:秋吉美都)