研究活動

研究例会

2018年度 第2回研究会
人間の尊厳と生(Life)

 テーマ部会Bでは昨年より「人間の尊厳」を共通テーマとして掲げています。昨年の研究例会および学会大会では、移民・難民を事例に、アーレントの政治思想から各国の移民・難民をめぐる政策や社会運動において「尊厳」という語がもっている政治的・社会的な機能まで幅広い議論が行われました。
 その成果を踏まえつつ、今期は、「life(生活・生命・人生)」という観点から尊厳の社会学を展開したいと考えています。「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等」(世界人権宣言)であり、また「人間の尊厳は不可侵である」(ドイツ連邦共和国基本法)ということは、現代社会においては譲ることのできない規範となっています。しかし、社会学的な観点からすれば、そうした尊厳や「自分らしさ」の尊重が日々の生活を形づくる相互行為やコミュニケーションを通じていかにして達成されるかが大きな問いになりえます。中でもさまざまな障害を抱える人々にとって、自分らしい生を他者との関わりの中でいかにして実現するかという問いは、今もなお極めて切実なものであり続けています。その一方で、近年では、介助者や介護者が当事者の主体性や人格を尊重しようとする思いが、かえって支援のあり方を硬直的なものにしてしまう可能性も指摘されています。また、そもそも何をもって「自分らしさ」や「人間らしさ」と考えるかは、その時代その時代の社会意識にも大きく規定されていると考えられます。
 以上のような「life」をめぐるさまざまな論点を踏まえ、今期のテーマ部会Bでは、「人間の尊厳」を問い直し、同時に、尊厳という観点から「life」に対する社会学的理解を深めていきたいと考えています。第2回研究例会では深田耕一郎さん(女子栄養大学)と染谷莉奈子さん(中央大学大学院/日本学術振興会特別研究員)に報告していただきます。皆さまのご参加をお待ち申し上げます。

開催日時

 2019年3月17日(日) 14:00-17:00

報 告

深田 耕一郎(女子栄養大学)
「〈共生社会〉における人間の尊厳――障害者の自立生活の現場から」

染谷 莉奈子(中央大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
「障害者総合支援法以降、知的障害者はいかなる親との関係性の中でどのように生きているのか」

討論者

石島 健太郎(帝京大学)

司会

本田 量久(東海大学)、小山 裕(東洋大学)

会 場

東洋大学白山キャンパス6号館6215教室
http://www.toyo.ac.jp/site/access/access-hakusan.html

連絡先

東洋大学 〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20
小山裕研究室(E-mail: koyama5042(アットマーク)toyo.jp)

担当研究委員

担当理事: 本田量久(東海大学)、小山裕(東洋大学)
研究委員: 昔農英明(明治大学)、石島健太郎(帝京大学)

◆報告要旨

「〈共生社会〉における人間の尊厳――障害者の自立生活の現場から」

深田 耕一郎(女子栄養大学)

 日本では2013年に障害者差別解消法が成立し2016年に施行された。この法律は、すべての障害者が個人としてその尊厳が重んぜられなければならないと明記し、障害を理由とした差別の解消を法の目的に掲げている。その後、政府は国連の障害者権利条約を批准するに至っている。こうした法制度の変化を受けて、福祉、教育の分野では〈共生社会〉を謳う言説が流通するようになった。しかし、現実に目を向けてみると必ずしも〈共生社会〉が実体を伴ったものとして姿を現しているとはいえない。2016年に相模原市で起きた津久井やまゆり園事件や、優生保護法下の強制不妊手術の問題、行政機関における障害者の水増し雇用など、むしろ逆行する事態が生まれていると考えることもできる。こうした動向のなかで、いま障害者はいかなる現実を生きているのか。〈共生社会〉の時代において人間の「尊厳」とは何を意味するのか。自立生活の現場から考えた

「はたらく現場とエスノメソドロジー研究:四種の関わり方」

染谷 莉奈子(中央大学大学院/日本学術振興会特別研究員)

 現在、障害者総合支援法により公的な福祉サービスによる生活の保障がある程度整っている。制度上、知的障害者にとって家族が必ずしも第一の生存の場ではなくなった。実際に、特別支援学校を卒業後、通所サービスを利用することは就学と同じくらいあたりまえになってきた。しかし、いまだ、多くの知的障害者の責任は、成人以降も親がとることが前提にあり、特に、高齢になっても親と同居し続けることはふつうの選択でありつづけている。他方、少数ではあるが、たしかに、グループホーム等の福祉サービスを利用する知的障害者もいる。しかし、この場合にも、毎週末帰宅する息子/娘に対し、親は、「できることをしてあげたい」と思い、さらに知的障害者本人も「土日は家族の日」と決めてしまうことから、グループホーム利用前に行っていた余暇活動の機会、特に知人と過ごす時間を縮小してしまう状況がある。このように、いままで親としか暮らしたことのない人も、グループホームなどで暮らす経験のある人も、多くが、親との繋がりを居場所に生きている。本報告では、知的障害者の親へのインタビュー調査を基に、知的障害者はどのように生きているのか、親との関係性を通し論じてみたいと考えている。

(小山 裕(担当理事))