受付終了
2021年度 第2回研究例会
新しい調査法と社会調査教育
社会調査士資格認定のための標準カリキュラムは、2003年以降社会調査協会およびその前身の社会調査士資格認定機構によって整備され、一定の標準化と質保証が実現されたといえる。本テーマ部会では、標準カリキュラム制定から15年以上が経過していること、および21世紀において調査に関する理論的・技術的イノベーションが相次いでいることを踏まえて、新しい調査法や研究のアプローチが、どのように研究実践の中で理解・活用され、社会調査教育に統合されているか、という問いを提起する。
デジタル革命は、新しいタイプのメソッドを可能とし、また必要ともする状況を生み出している。例えば、ウェアラブル・デバイスを用いた行動追跡や、ソーシャル・リスニングによるデータ収集の可能性が広がった。スマホの位置情報、血圧、ボディマス指数、遺伝情報など、自然科学で用いられてきた情報も社会学の変数として扱われるようになりつつある。分析手法においても、反実仮想や因果推定には新たな理論とツールが導入されている。調査環境と分析手法の革新を背景として、社会学は他分野と連携を深めるとともに、そのディシプリンの内部においても、質的比較分析やトピック・モデルに例示されるように質的方法と量的方法のシナジーを経験しつつある。本テーマ部会は、社会学者は、こうした変化を自身の研究においてどう受けとめ、また教育のプロセスに統合しているのか、ということを確認する場を設ける。
そこで、本テーマ部会では、新しい調査法がもたらすかつてない機会を縦覧するとともに、社会調査や分析の未来像を模索したい。2022年には新しい調査法が登場するなかでの社会調査教育を主題として、先進的な取り組みの紹介と、現在の社会調査教育の課題を議論する。2023年には、社会調査の理論的・技術的イノベーションを踏まえ、そもそも調査とはなにか、データとはなにか、データ収集や分析をどう理解するか、という認識論にも踏み込む。
2022年の研究例会では、下記のとおり、新しい調査実践の可能性と課題に取り組んでいる研究者を迎えて模索します。また後半では参加者の経験を共有するためのラウンドテーブルの時間を設けます。研究者、実務家、大学院生など調査に携わるさまざまな立場の方に参加いただき、情報交換や対話の機会としていただきたいと存じます。
開催日時
2022年3月20日(日)14時~17時
報告者
大林真也(青山学院大学)
「デジタル社会調査の研究と教育」
吉川侑輝(立教大学)
「ワークプレイスのなかの調査士教育―エスノメソドロジーの立場から」
脇田彩(お茶の水女子大学)
「オンライン化された社会調査教育の課題と意義」
司会
研究担当理事、研究委員
会場
Zoomによるオンライン形式で開催
研究例会への参加を希望される方は、3月9日(水)までに、以下のリンク先のGoogle Formに必要事項を記入し、送信して下さい。前日までにオンライン参加に必要な情報をお知らせ致します。
【締め切りました】
連絡先
専修大学人間科学部社会学科 秋吉美都
E-mail: mito.akiyoshi[at]gmail.com([at]を@に置き換えてください)
担当研究委員
担当理事: 渡邉大輔(成蹊大学)、秋吉美都(専修大学)
研究委員: 内藤準(成蹊大学)、齋藤圭介(岡山大学)
報告要旨
「デジタル社会調査の研究と教育」
大林真也(青山学院大学)
近年では、ICTの発達やSNSの隆盛により、私たちの社会的世界は大きく変わりつつある。それとともに、そうした社会的世界について日々膨大なデジタルデータが生み出され、蓄積されるようになった。他方では、調査に対する世間のニーズとして、データサイエンスや効果検証(EBPM)に注目が集まっている。かねてより社会学では、社会的世界の記述として、インデプスインタビューやサーベイが多用されてきたが、こうしたデジタルデータの活用や因果推論という点では後れをとっている。
ビッグデータは多くの社会学理論が必要とする相互行為や関係性に関するデータを大量に含んでおり、(デジタル・フィールド)実験は、社会現象の再現を可能にするという意味で、社会学の発展に重要な役割を果たす。そのため、ビッグデータ収集や実験研究の社会学における蓄積は喫緊の課題である。この課題を解決するためには、社会学のみならず他分野の研究者と共同で研究・教育に従事することが必要である。本報告では、異分野融合学部に所属し、従来型の社会調査だけでなく、デジタル社会調査にも従事する立場から、この問題を検討する。
「ワークプレイスのなかの調査士教育―エスノメソドロジーの立場から」
吉川侑輝(立教大学)
自身の専門性を教育においてどう活用するかはおそらく、研究者にとってのある程度一般的な実践的課題を構成する。「難しい」けれども「重要な」ことを学生にどう教示するか。広く了解された通説的な説明と、新しい研究成果の間の差異をどのように埋めるか。そもそも、担当しているのが自身の専門に係る科目であるのか。
調査士科目という制約は、こうした一般的課題を、一層複雑なものとする。エスノメソドロジーを専門とする報告者の場合、その近年における展開や多様性、「質的研究」との関係についての複数の立場、そして社会調査における質的研究のそもそも位置づけなど、それぞれが一筋縄ではいかない論点を構成する。教員が調査士資格を有しているか、あるいは所属する組織において予め定まった教示内容が存在しているかといった個別的な事情も併せて考える必要がある。
こうした課題は、まずは大学というワークプレイス(職場)においてなされるその都度の授業実践のなかで解消されなくてはならない。こうした関心のもと本報告では、専門性と調査士教育という複層的な関心を調停するやり方の一端を、自身の経験などをもとに報告・検討したい。
「オンライン化された社会調査教育の課題と意義」
脇田彩(お茶の水女子大学)
量的調査による社会調査実習に対して、近年の研究・社会状況の変化がどのような影響を与え、新たな課題を生じさせているか、平凡な社会調査実習の実践から考えたい。
パンデミックの影響もあり、社会調査教育の中でインターネット調査を行うことが増えたと思われる。インターネット調査には大きな利便性があるが、特有の倫理的課題や注意点があることが知られており、調査対象者の負担軽減や回収率向上などのための工夫が必要となる。また、調査だけでなく授業・学生指導のオンライン化も進み、情報の共有が容易になる一方で、学生相互や学生・TA・教員間の気軽なコミュニケーションが難しくなるといった影響を社会調査教育も受けている。社会調査実習を担当する教員はこうした調査・教育の変化に注意し、新しい調査・分析の手法を積極的に取り入れて、調査を実施することになる。
社会調査実習における調査は教育を目的として行われるが、研究上、あるいは社会的に意義のある成果を上げる場合があることにも注目したい。倫理審査を経るなどして、成果を適切な形で公表したり、調査対象者に還元したりできる体制を整える必要性も増していると考えられる。
(文責:秋吉 美都)