研究活動

年次大会

第68回大会(駒澤大学/オンライン)「テーマ部会」

▼テーマ部会A「理論というフィールド=ワーク」
▼テーマ部会B「ワークショップ時代の統治と社会記述――「新自由主義」の社会学的再構成」

テーマ部会A 「理論というフィールド=ワーク」

出口 剛司(東京大学)、流王 貴義(東京女子大学)
研究委員:三浦 直子(神奈川工科大学)、齋藤 圭介(岡山大学)

文責:三浦 直子

部会要旨

テーマ部会Aでは、社会学の理論はいかなる社会記述を可能にするかという観点から、共通テーマとして「理論というフィールド=ワーク」を掲げて、理論が果たす役割と課題を探求しています。理論には本来、社会的現実や対象となるフィールドそのものを生産する構想力、対象の輪郭を浮かび上がらせる記述力が備わっています。そこで、こうした理論の構想力や記述力を発現させる作用を理論固有の「フィールド=ワーク(field-work)」と呼び、その意義の検証を目指します。
 本年度の大会テーマ部会では、待望の邦訳が刊行されたピエール・ブルデューの『世界の悲惨』を取り上げ、社会学理論のもつ新たな可能性について検討します。ブルデュー自身は、フィールドで仮説検証する中範囲の理論ではなく、あくまでも理論の体系性を志向しながら長期にわたる対話的な聞き取り調査を企画し、多数の研究者と共同で実施しました。これら52のインタビューが収められた『世界の悲惨』は、ブルデュー社会学におけるひとつの理論的到達点であると同時に、多くのフィールドワーカーに参照されています。さらに、広く一般読者にも支持されるベストセラーとなり、フランス社会に大きな影響を与えました。
 第一報告の櫻本陽一さんは、『世界の悲惨』の監訳者でもあります。櫻本さんには、研究プロジェクトという側面から、『世界の悲惨』の形成過程に関わる知的・思想的背景を読み解き、本書の理論的・方法論的な位置づけと取り上げられているテーマの意味を考察し、それらを一つの歴史的な現実として対象化することで、プロジェクトの成果と課題について報告いただきます。第二報告の小澤浩明さんからは、ブルデュー自身が調査に携わった「国家と教育」に関する領域に焦点を当てて、当時のフランス社会に浸透するネオ・リベラリズムへの批判と対抗の視角から『世界の悲惨』を分析し、その後のブルデューの理論展開とのつながりについて報告いただきます。最後に、第三報告の北條英勝さんからは、ブルデューが提唱した「社会-分析」の手法について、象徴暴力をとらえる社会学理論との関連を踏まえつつ、ブルデューの初期の研究から『世界の悲惨』へと至る研究の展開のなかでの位置づけを時系列的に分析し、「社会-分析」の意義について報告いただきます。
 討論者には、質的調査の最前線に立つ岸政彦さん、調査法研究や計量研究に精通した相澤真一さんをお迎えし、コメントをいただきます。理論に依拠して「世界の悲惨」を記述したブルデューにおける「理論というフィールド=ワーク」について考察します。多くの皆様のご参加をお待ち申し上げます。

報告者および題目

理論的実践的プロジェクトとしての『世界の悲惨』
櫻本 陽一(日本大学)

『世界の悲惨』におけるネオ・リベラリズム批判と国家・教育
―「トランスナショナルな社会国家」構想と「普遍化」テーゼへ―

小澤 浩明(東洋大学)

『世界の悲惨』における「社会-分析の臨床的機能」再考
北條 英勝(武蔵野大学)

討論者:岸 政彦(立命館大学)、相澤 真一(上智大学)
司会者:三浦 直子(神奈川工科大学)、流王 貴義(東京女子大学)

テーマ部会B「ワークショップ時代の統治と社会記述―まちづくり・ワークショップ・専門家―」

担当理事:加島 卓(東海大学)、元森 絵里子(明治学院大学)
研究委員:牧野 智和(大妻女子大学)、仁平 典宏(東京大学))

文責:元森 絵里子

部会要旨

テーマ部会Bでは、2年間かけて、現代社会の記述の困難について議論していこうとしています。かつて、国家権力―住民自治、専門家支配―市民参画、教育―遊び、労働―余暇のように、近代的な大文字の諸価値に新しい価値を対置するという対抗図式が各分野で用いられ、社会学者もそれに掉さしてきました。逆にある時期からは、住民自治や市民参画の理想を掲げることが、コストカットと自己責任を旨とする新自由主義の統治を下支えしてしまう可能性を反省的に指摘することが、社会学者の役割のようになったりもしました。
 しかし、そうこうしているうちに、「自治」や「参画」や「選択」の理想は、対抗的なトリックではなく、新自由主義的な自治体政策(統治のモード)のなかに組み込まれて久しくなりました。「〇〇化社会」式のグランドセオリーも、「新自由主義」だという批判も、それが私たちの日常に根付き、そのなかで切実な実践が行われている現状に対し、空を切ってしまう感があります。タイトルになっている「ワークショップ時代」とは、このような時代を大まかにイメージしています。コンサルタントやマネジメント系の論者の記述のほうが力を持っているかにも見える「ワークショップ時代」に、社会学者はどう関わり、それをどう記述したらいいのか、分野横断的に議論をしてみたいと思います。
 ワークとアートという2つの領域からこの現状を確認した研究例会を踏まえ、今回の大会時テーマ部会では、正面から「ワークショップ」を共通テーマにしてさらに議論を重ねていきます。
 第一報告の牧野智和さんからは、建築・まちづくり系のワークショップをめぐる知と実践の歴史的変遷から、市民を巻き込む技法が批判や反省も取り込みながら洗練されていく過程をご紹介いただきます。第二報告の植田剛史さんからは、都市計画というハードの専門家が、コンサルタントとしてワークショップをファシリテートするようになるに至る歴史や、行政と市民に挟まれ、なんでも屋であることが求められるなかで専門性の維持に苦慮する実情を紹介していただきます。第三報告の五十嵐泰正さんからは、実際にまちづくり等の現場に住民・市民として関わるなかで、社会科学の専門家でもある立場として、どのような判断でどのような振る舞いや記述をしているかを具体的にお話いただきます。
 討論者には、典型的なワークショップとは少し異なる実践「福島ダイアログ」を運営する安東量子さんと、近現代の都市と社会記述に関する論考を多く発表されてきた近森高明さんをお迎えします。これらを通して、「ワークショップ」の現状理解を共有すると同時に、それを記述する社会学者のポジショナリティや、そこにおける人々の振る舞いの技法を記述する道具立てなどを議論していきたいと思います。テーマ部会の成果は、次年度の研究例会と大会時テーマ部会にも引き継いでいきますので、議論に多くの方が加わってくださることを期待いたします。

報告者および題目

まちと「自分ごと」のデザイン:まちづくりにおけるワークショップ活用形態の展開から
牧野 智和(大妻女子大学)

プロジェクト型開発の時代における都市計画コンサルタントの専門知
植田 剛史(愛知大学)

「みんなで決める場」と「みんなが話せる場」のあいだ
五十嵐 泰正(筑波大学)

討論者:安東 量子(NPO法人福島ダイアログ)、近森 高明(慶応義塾大学)
司会者:加島 卓(東海大学)、元森 絵里子(明治学院大学)