第67回大会(早稲田大学)「テーマ部会」
▼テーマ部会A「はたらく経験へのアプローチ ―メディアをめぐるワーク:制作から受容まで―」
▼テーマ部会B「人間の尊厳と生(Life)」
テーマ部会A 「はたらく経験へのアプローチ ―メディアをめぐるワーク:制作から受容まで―」
担当理事:是永 論(立教大学)、中村 英代(日本大学)
研究委員:秋谷 直矩(山口大学)、森 一平(帝京大学)
文責:是永 論
部会要旨
本テーマ部会では、「はたらく経験へのアプローチ」をテーマに、社会における当事者の経験に対して、「ワークプレイス研究」を手掛かりに考察することを目的としています。これまでの考察から、「ワーク」としての記述によって当事者の実践が導かれる場合のように、行為の記述それ自体が、教示的および倫理的な規範を表すものとして読み解かれる可能性が確かめられました。このことは、専門的な職業領域のみならず、日常における家庭での学びといった場面についても、行為の分析が当事者に対してもつ研究的な意義を示すものとしてとらえられます。
今回の大会時テーマ部会ではこうしたポイントを総括する意味で、「メディア」を対象に取り上げます。メディアはその制作現場において、デザインなど独自の専門性が追求される一方で、それが実際に受容される現場では、日常的な規範を参照した理解がなされています。前者を制作のワーク、後者を読解のワークとすれば、近年顕著になっているメディアの批判なども、両者のワークにおける一つのせめぎ合いとみなせる可能性があります。
第一報告の松永伸太郎さんからは、アニメ制作の現場において、作品制作を担う重要な職種の一つである作画担当者(アニメーター)が、実際の作品制作の中で描いた絵をデータとして、当事者が紙のやりとりのみで協働するためにいかなる技法を用いているのかについて報告いただきます。続く第二報告の團康晃さんからは、小説投稿サイトという環境において小説を書くこと、読むこと、さらにコメント欄でのコメントのやりとりによる本文への相互作用という、オンライン小説執筆をめぐるワークについて報告いただき、最後に第三報告の加島卓さんからは、東京オリンピックのエンブレム取り下げに関する現象を題材に、デザインの「作り方」と「使い方」の関係を検討することを通じて、メディアの送り手と受け手の双方が関わる実践の記述がもつ可能性について報告いただきます。
討論者には『広告で社会学』などの著者で、メディアと社会の関係について研究されてきた難波功士さんをお迎えし、ご専門のほかに、過去にコピーライターとして制作作業に携わったご経験などもふまえてコメントをいただきます。
特に近年において多様化や細分化が大きく展開するメディアの諸現象を対象に、「ワーク」の観点から新たに共通性をもってとらえ直すことにより、激しい変動を見せる現代社会に対応した分析視角が、領域に限定されない形でもたらされることが期待されます。
報告者および題目
原画用紙上での協働とインストラクション
―非リアルタイム状況での共同作業を可能にする技法―
松永 伸太郎(長野大学)
コメント欄の相互行為分析
―小説投稿サイトにおける読者コメントと投稿者の本文修正に注目して―
團 康晃(大阪経済大学)
デザインの「作り方」と「使い方」
―エンブレム問題におけるメディアの送り手と受け手のワーク―
加島 卓(東海大学)
討論者:難波 功士(関西学院大学)
司会者:是永 論(立教大学)
テーマ部会B「人間の尊厳と生(Life)」
担当理事:本田 量久(東海大学)、小山 裕(東洋大学)
研究委員:昔農 英明(明治大学)、石島 健太郎(帝京大学)
文責:本田 量久、小山 裕
部会要旨
テーマ部会Bでは昨年より「人間の尊厳」を共通テーマとして掲げています。昨年の研究例会および学会大会では、移民・難民を事例に、アーレントの政治思想から各国の移民・難民をめぐる政策や社会運動において「尊厳」という語がもっている政治的・社会的な機能まで幅広い議論が行われました。
その成果を踏まえつつ、今期は、「life(生活・生命・人生)」という観点から尊厳の社会学を展開したいと考えています。「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等」(世界人権宣言)であり、また「人間の尊厳は不可侵である」(ドイツ連邦共和国基本法)ということは、現代社会においては譲ることのできない規範となっています。しかしながら、規範の社会的な承認は、その実現の必要条件であったとしても十分条件ではありません。尊厳や「自分らしさ」の尊重が日々の生活を形づくる相互行為やコミュニケーションを通じていかにして達成されるのか、あるいは、尊厳をもった生を「自己決定」や「経済的な自立」や「他人に迷惑をかけないこと」といった価値に縮減する動きが社会の中でどのように形成され、またそれに対してどのような抵抗がなされてきたのか、という社会学的な問いが必要となるゆえんです。
なかでもさまざまな障害を抱える人々にとって、自分らしい生を他者との関わりの中でいかにして実現するかという問いは、今もなお極めて切実なものであり続けています。その一方で、近年では、介助者や介護者が当事者の主体性や人格を尊重しようとする思いが、かえって支援のあり方を硬直的なものにしてしまう可能性も指摘されています。また、そもそも何をもって「自分らしさ」や「人間らしさ」と考えるかは、その時代その時代の社会意識にも大きく規定されていると考えられます。
以上のような「life」をめぐるさまざまな論点を踏まえ、今期のテーマ部会Bでは、「人間の尊厳」を問い直し、同時に、尊厳という観点から「life」に対する社会学的理解を深めていきたいと考えています。第一報告の三井さよさんからは、これまでタブーとされがちだった知的障害・発達障害の人たちによる「触法行為」に近い行為に焦点を当て、そうした行為が繰り返される場面での支援を事例に、私たちがふだん想定している価値の共有とコミュニケーションのあり方を問い直す報告をしていただきます。第二報告者の榊原賢二郎さんには、2016年に発生した相模原障害者施設殺傷事件に対して人々や各種の団体が行ってきた帰責を分析し、障害をめぐる制度や運動、さらには理論の現在について考察する報告をしていただきます。第三報告の石島さんからは、戦後日本で行われた福祉に関わる社会調査の二次分析を通じて、尊厳を当事者本人だけの問題へと縮減させるのではなく、社会の側へも開いていくための可能性の条件を探る報告をしていただきます。討論者としては、市野川容孝さんに、ご自身が関わられてきた優生保護法をめぐる諸問題についても言及しつつ、コメントをいただきます。
みなさまのご参加をお待ち申し上げます。
報告者および題目
価値の共有とコミュニケーション
―知的障害・発達障害の人の「触法行為」をめぐって―
三井 さよ(法政大学)
優生思想と事件の帰責―相模原障害者殺傷事件の因果観察について
―優生思想と事件の帰責―相模原障害者殺傷事件の因果観察について―
榊原 賢二郎(東京大学)
福祉をめぐる恥と自己責任
―尊厳を維持する責任をもつのは誰か―
石島 健太郎(帝京大学)
討論者:市野川 容孝(東京大学)
司会者:本田 量久(東海大学) 小山 裕(東洋大学)