第66回大会(武蔵大学)「テーマ部会」
▼テーマ部会A「医療現場で働くということ―社会学になにができるか―」
▼テーマ部会B「移民・難民と人間の尊厳」
テーマ部会A
「医療現場で働くということ―社会学になにができるか―」
担当理事:是永 論(立教大学)、中村 英代(日本大学)
研究委員:秋谷 直矩(山口大学)、森 一平(帝京大学)
文責:中村 英代
部会要旨
今期の部会Aでは、「ワークプレイス研究―働く経験へのアプローチ」を全体のテーマとして掲げ、研究活動を行っています。2018年6月のテーマ部会では、「医療現場で働くということ」に着目し、医療と社会学の在り方について広く議論する機会とさせていただきました。
医療化が進展し、私たちは生活のさまざまな局面で医療と関わりを持つようになっています。同時に、医療技術は日々進化し、患者も意思決定プロセスに関わっていくなど、変わりゆく医療現場で働く人々もさまざまな課題に直面しているはずです。では、この変化しつつある医療現場において人々は、どのようにみずからの実践を織り上げ、いかなる経験をしているのでしょうか。そして社会学研究は、その変化しつつある医療の実践や経験をどのように記述し、何を医療現場に還元することができるでしょうか。医療現場の変化を前に、社会学研究に携わる私たちもまた、改めてこうした課題に向き合う必要が生じてきているのではないでしょうか。
そこで本部会では、1)医療現場で働く経験とはどのようなものか、2)医療現場を調査・分析する方法にはどのようなものがあるか、3)社会学研究で得られた知見をどのように現場に還元していくか、に着目し、各登壇者にそれぞれのフィールド調査に基づいた報告をしていただきます。
第一報告をお願いしたのは、『小児がんを生きる―親が子どもの病いを生きる経験の軌跡』の著者であり、医療当事者たちの豊富な「語り」に基づきその経験を明らかにしてきた鷹田佳典さんです。第二報告は、エスノメソドロジーの立場から医療を含む様々な「ワークの研究」に携わってきた池谷のぞみさんです。第三報告は、『心の文法―医療実践の社会学』の著者であり、エスノメソドロジーの立場から、広く医療当事者たちの経験と実践を明らかにしてきた前田泰樹さんです。池谷さん、前田さんのお二人は『ワークプレイス・スタディーズ―はたらくことのエスノメソドロジー』にもご執筆されています。
討論者としては、『死にゆく過程を生きる―終末期がん患者の経験の社会学』の著者であり、社会学・生命倫理学の研究・教育を続けながら、医療現場の実践にも深くかかわっていらっしゃる田代志門さんをお迎えし、医療社会学の動向を踏まえた視点などから検討をいただきます。
医療および医療社会学にご関心のある方、働く経験へのアプローチにご関心のある方、質的調査の方法について知見を広げたい方、何らかの現場に社会学の研究を通じて貢献をしたいと考えられている方、エスノメソドロジーについて学びたい方など、個別のトピックを超えて、参加者の皆さまが日々の研究や実践のヒントを得られるような部会を目指しております。当日は、フロアからの質疑応答の時間もゆとりをもってもうけさせていただきますので、どうぞふるってご参加下さい。
報告者および題目
死生の際で働くということ―小児終末期医療の現場から―
鷹田 佳典(早稲田大学)
ワークの研究における記述とその協働性―医療の文脈における考察―
池谷 のぞみ(慶應義塾大学)
急性期病院で働くということ―協働実践としての看護―
前田 泰樹(立教大学)
討論者:田代 志門(国立がん研究センター)
司会者:中村 英代(日本大学)、森 一平(帝京大学)
テーマ部会B
「移民・難民と人間の尊厳」
担当理事:本田 量久(東海大学)、小山 裕(東洋大学)
研究委員:昔農 英明(明治大学)、石島 健太郎(帝京大学)
文責:本田 量久、小山 裕
部会要旨
こんにち、グローバルな経済格差と貧困問題、民族的・宗教的迫害、紛争といった危機的状況を逃れるべく、多くの人々が国境を越えて豊かで安全とされる国へと移動しています。このような動向にあって、国際機関(UNHCRなど)や人権団体などが移民・難民の支援活動を行なっています。しかし、現実には、移民・難民やその子どもたちはホスト社会で受け入れられているとは限りません。多くの移民・難民を受け入れている国々では、人種的・宗教的偏見や社会不安の高まりを背景に極右政党が台頭し、また国によっては移民・難民の国外退去/強制送還が実施されています。このような状況を背景に、自由や平等を生まれながらに与えられた権利として捉える自然権的な近代民主主義の理念、国民国家を前提とした尊厳・人権概念が批判的に再検討され、グローバル時代における民主的諸権利の保障とその条件をめぐる議論が広く展開されています。
本テーマ部会Bでは「移民・難民と人間の尊厳」と題してシンポジウムを開催いたします。本テーマ部会では、森千香子さん(一橋大学)、小ヶ谷千穂さん(フェリス女学院大学)、昔農英明さん(明治大学)に各々の専門領域から本テーマについて報告していただきます。森さんは、フランスにおける移民・難民とマジョリティを分断する差別・排除などについて、小ヶ谷さんは、フィリピン移住女性のモビリティなどについて、昔農さんは、ドイツの難民庇護政策などについてそれぞれ研究されています。討論者は、オーストラリアの多民族・多文化社会などについて研究されている塩原良和さん(慶應義塾大学)、日本に滞在する中国人ソジョナーなどについて研究されている坪谷美欧子さん(横浜市立大学)に務めていただく予定です。
本シンポジウムにおける論点は、エスニック・マイノリティ/移民・難民を取り巻く状況(権力関係の構造、イデオロギーや言説、差別や排除など)、権利保障のための制度(法律、国の政策など)、エスニック・コミュニティや人権団体の活動など、多岐にわたっており、「移民・難民と人間の尊厳」について多角的かつ重層的な議論が展開されるだろうと期待しております。みなさまの積極的なご参加をお願い申し上げます。
報告者および題目
都市から「難民危機」を/「難民危機」から都市を考える
森 千香子(一橋大学)
移動とヴァルネラビリティ―アジアの移住女性労働者をとりまく状況から―
小ヶ谷 千穂(フェリス女学院大学)
ドイツの難民受け入れとレイシズム
昔農 英明(明治大学)
討論者:塩原 良和(慶應義塾大学)、坪谷 美欧子(横浜市立大学)
司会者:本田 量久(東海大学) 小山 裕(東洋大学)