第37回大会「自由報告部会」報告概要
第1部会
報告概要
山岸 健(慶應義塾大学)
第37回関東社会学会大会における第I部会の研究報告は、上智大学の8号館207教室で午前10時すぎからおこなわれたが、スタートの時点で22名の参加者が見られ、終始、30名近くの参加者を得て研究報告がおこなわれたことは幸いだった。つぎのような順序で報告がおこなわれ、質疑応答も活発におこなわれた。――(1)音楽社会学の位置と関心―最近研究から、上智大学 岩村沢也氏。(2)都市とサウンドスケープの変容―中央区佃島の調査から、慶應義塾大学 大西貢司氏。(3)相互作用秩序の分析可能性―「フレーム」と「エスノ・メソッド」、埼玉大学 佐竹保宏氏。(4)社会主義国の試験制度に関する社会学的考察―「内申書」・「推薦」の機能について、東京大学 尾中文哉氏。
この第I部会の研究報告は上記のようにバラエティに富んでいたが、日常生活の場面や身辺、生活史やキャリアなどがクローズ・アップされてくるという点で部会としてのまとまりが見られたように思われる。
質疑応答という点では、第1報告ではシュッツにおける複定立性、また、報告の全体にかかわることだが、意味という言葉をめぐって討論や意見発表がおこなわれ、第2報告では生活者の年齢の相違によるサウンドスケープの印象の違いなどについて質問と応答がおこなわれた。第3報告ではエスノメソドロジーをゴフマンはどのように見ていたのか、などといった問が出され、ゴフマンの視点とエスノメソドロジーのアプローチをめぐって議論がおこなわれた。第4報告では試験制度や権力などをめぐって質疑応答がおこなわれ、わが国における内申書などについてもその歴史的経緯が論じられた。いずれも内容ゆたかな報告であり、研究の発展と展開に大きな期待が寄せられるものだったと思う。社会学の舞台は広く、奥ゆきはまことに深い。
第2部会
報告概要
石原 邦雄(東京都立大学)
以下の4つの報告がなされ、活発な質疑がかわされた。
(1)現代日本の性抑圧構造に関する社会学的一考察(古田睦美)。(2)家族の機能の変化とファミリー・スタイル(岩田若子)。(3)修正拡大家族論の系統的整理にための一討論―家族史研究の動向をふまえて―(平岡佐智子)。(4)社会福祉について―日本的社会福祉を探究して―(江川茂)。
第1報告(古田)は、現代社会において資本制と家父長制が相互依存的に存在すると見るニューフェミニズムの提起したデュアルシステムアプローチを受けとめた上で、特にその家父長制について再検討し、それはイデオロギーとして、土台(資本制)に対する上部構造に位置付けられ、両者の関係は既存の資本主義的社会諸関係が、「家父長制的」に編成される形で現われるといる仮説とともに、ジェンダーの社会学の新しい研究課題を提示した。
第2報告(岩田)は、森岡清美らの従来の家族定義、家族機能論の限界を認識して、来たるべき「友愛社会」における「家族」のありようを、制度家族の自然消滅の後の「過程家族」の出現という展望によって示そうとしたものである。そこでは家族は、「性、生殖、性・生殖いずれかの生活問題の解決のために離合集散する2人以上の自立した生活者を構成員とし、成員相互の深い感情的な融合によって結ばれた自己実現集団である」と定義されるという。
第3報告(平岡)は、修正拡大家族を歴史的変動と持続性の観点から把握する必要を提起し、その前提としての論点整理を、理論的背景、概念整理、歴史的状況、社会的文脈の諸側面から行なおうとした。モチーフとしては、凝縮性を増す「近代家族」とネットワーク的な緩い繋がりとしての「修正拡大家族」の2重的存在という観点があるようであった。
第4報告(江川)では、「社会福祉」を学際的な広い視点から理論的に再構成していく問題意識が語られたようであったが、残念ながら論旨をたどりきれなかった。
第3部会
報告概要
鐘ガ江 晴彦(専修大学)
第III部会では、当初3本の報告が予定されていたが、木村英憲氏(愛知学院大学)が急病で欠席したため、2本だけとなってしまった。
第1報告の、人間的状態と象徴的メディア――パーソンズの観点から――(中央大学 江川直子氏)では、パーソンズの晩年の著作である『行為理論と人間的状態』にもとづいて、彼の理論における人間的状態の体系の構造、各体系の相互交換から生じる一般化された象徴的メディア、人間的状態に関する相互交換のカテゴリーが示され、パーソンズもメディア論に関しては「静態的」という批判は当たらない、と述べられた。それに対してフロアーからは、パーソンズが動態的だという理由は何か、象徴的メディア論とチョムスキー理論との関係はどうなるのか、等の質問がなされた。
第2報告の、日本の「人間」と「集合体」の特質について――「個人」と「集団」の比較から――(中国瀋陽師範学院 宮内紀靖氏)では、まず「個人」と「集団」がどのように捉えられてきたかが述べられ、次いで日本の「人間」と「集合体」との捉え方は、接際重視人間である「際人(きわじん)」と布袋状社会としての「際団(きわだん)」であるとの見解が示された。さらに、社会構造の変動と「人間」「集合体」の捉え方の変化、「際人・際団」論と「間人主義」との異同等について述べられた。これに対しては、闘争や抑圧といった人間関係をどう分析するのか、社会自体の変動がどう捉えられるのか、等の質問がなされた。
総括討論では、日本的集合体の特徴、パーソンズの評価、「社会学」という語で何を指すのか等について、若干の議論がなされた。